循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

突然脈が40回/分になったら

こんにちは、うしです。

 

前回血圧の話を書きましたが、以前にApple Watchでも脈のことを書いたので、今度は徐脈ということで、突然脈が40回/分になったらというタイトルとしました。

 

非医療者向けに書いていますが、医療関係のにも参考になるように書いているためよかったら読んでもらえたら幸いです。

 

 

 

 

 

ところで、もしもたまたま脈を計ったとき、もしくは血圧計で脈拍 40回/分と表示されたらどうしますか?

 

 

 

 

もちろん診察してみないと、また心電図を見ないと何とも言えないのですが、大前提として

 

無症状の慢性の徐脈は基本的に様子見でほとんど大丈夫です。

 

 

この理由を書いていきます。

 

その前に、徐脈とは脈拍 60回/分以下のことを言います。

 

 

 

 

①徐脈の原因

 

徐脈といっても、洞性徐脈(ただ遅いだけ)不整脈(病気)に分かれます。

(不整脈の中に洞性徐脈と分類されることが通常ですが、わかりにくいので上記のように書きました)

 

ほとんどの場合は洞性徐脈なのだと思いますが、年齢や基礎疾患によっても変わってきますし、とりあえず漠然と徐脈としておきます。

徐脈についてもう少し気になる方は自分のブログの症状別の12誘導心電図のブログも参照ください。

 

徐脈の原因について、ぱっと思いつくだけで以下のものがあります。

・スポーツ心臓

・老化現象

・副交感神経有意(リラックス、迷走神経反射)

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・特発性(単独で生じた)の不整脈

・心筋疾患(心筋梗塞、心筋炎)

・脳卒中

・内分泌異常(甲状腺機能低下症、副腎不全)

・電解質異常(高カリウム血症)

・薬の副作用

 

スポーツ心臓については、特にマラソンなどハードな運動をしている(していた)人は徐脈になりやすく、全く問題ありません。

老化現象については、進行すると不整脈として扱われます。

副交感神経有意は様々な場所で起こりますが、短時間であり徐脈で問題になることはないでしょう。

 

問題なのは上記点線の下のものたちです。

言えることは、症状がなければ緊急性はなさそう、ということです。

 

次の②でも言いますが、脳卒中や心筋梗塞、内分泌疾患で症状が全くなく徐脈だけで発症するということは非常に稀です。

ここでいう症状というのは、倦怠感というだるさも入るため、少しでも症状があるのであればそれはしっかり病院で評価するべきです(特に胸の苦しさや麻痺などがあるようであれば救急車を呼ぶべきです)。

また高カリウム血症や薬剤の副作用というものは、基礎疾患(慢性腎不全など)や薬剤・サプリメントなどを内服していなければ基本的には考えにくいです。

また、急に徐脈になり、持続するということは何か原因がある可能性が高く、今後も進行しやすく注意が必要です。

 

症状がなければ緊急性はなさそうの裏を返すと、

 

基礎疾患や症状があったり、基礎疾患や内服があったり、急性に出現し持続する徐脈はこの類ではないため、体調に応じて早期の受診が必要とも言えます。

 

 

 

 

②徐脈の治療

 

上記のような2次的な徐脈の原因がないとき(または2次的であっても徐脈が一番問題のとき)、徐脈の治療はどうしたらいいでしょう。

 

これ実は、徐脈の治療はペースメーカー挿入しかありません

 

薬もなくはないのですが、内服で徐脈を治す薬はありません。

(副作用で脈があがる薬はなくはありませんが適応外使用です)

 

点滴なら徐脈に効くものもありますが非常に限定的です。

 

そして、このペースメーカー挿入ですが、どの不整脈でも適応は失神や胸苦(胸が苦しいなど)などの症状があるときに絶対適応で、それ以外は適応は乏しいということです。

 

つまり、すごい怖い不整脈が出ていても、症状がなければペースメーカーの適応があまりない(=治療不要)ということになります。

 

自分も循環器になったときにこれを知って少し意外に感じました。循環器以外の医師もあまりこのあたりは知られていないため、心電図を見て「大至急循環器に行くように」とご紹介受けることもよくあります(全然歓迎ですが(笑))。

 

あとは、これには例外が多数あり、症状がなくても血圧の異常高値や、徐脈や血圧異常による心不全(心臓の破綻)がある場合は現時点で症状がなくてもペースメーカーの絶対適応になることもあります。

 

通常であれば強い症状が出る場合でも、認知症などでうまく訴えられないこともあります。

 

症状がなくても急速に進行する場合は突然心停止になることもあります。

 

これも裏を返すと、少しでも症状があったり、だるそうであったり、進行している場合は早めに医療機関受診をお勧めする、ということにもなります。

 

特に40分/回の高度徐脈は心電図や細かい検査をしてみないとなんとも言えないことも多いため、注意が必要です。

 

 

 

 

 

③実際の現場から

 

徐脈になり、クリニックから紹介を受ける場合、まずは心臓のエコー検査(超音波で心臓の形や動きをみる)とホルター心電図(1日中心電図をつける)をして、診察に入ることが多いです。

この際に心臓の状態(問題ない不整脈だけの場合はエコー検査は正常のはず)や心電図の波形、症状や進行具合(数日単位で進行しないか)などを見て、総合的に評価します。

 

あとは徐脈になる薬剤を飲んでいないかと、採血検査でカリウムなどの電解質の異常がないかを確認します。

(徐脈になりやすい薬剤を見つけた場合は中止するだけで改善することも多いです)

 

困るほどの症状がなければだいたいは経過観察として、6-12か月に1回外来で進行がないか確認するようにしています

 

強い症状があったり、失神しかけたり、進行性であればペースメーカーの植え込みを相談しています

(徐脈とは少しイメージ変わりますが、心停止(心臓が止まっている時間)が最大4-5秒ある場合は今後失神などするリスクが高いため無症状でもペースメーカー挿入を相談しています)

 

 

 

 

 

④頻脈のときは?

 

脈拍 100回/分以上のことを頻脈と言います。

走れば、若年であればみんな200回/分程度まではあがるため、リラックスして安静にしたときの脈拍のことだと考えてください。

頻脈も徐脈と似ていて、洞性頻脈(ただ脈が速いだけ)不整脈(病気)に分かれます。

 

症状がなければ緊急性はないことが多く、症状があれば急ぐことがあることも同じです。

 

背景に原因の疾患(頻脈は2次的)なことがあることもありますし、ないことも多いです。

 

ただし、徐脈より治療が多彩で、症状がなくてもある瞬間で心臓が破綻することも多く、不整脈の種類によっては大至急対応が必要なこともあるため、徐脈よりも一概に言えない、というのが正直なところです。

 

マイルドな薬もたくさんあるし、電気ショックで治療することもあるし、最近はカテーテルアブレーションという不整脈を焼灼して治療することもあります。

 

慢性で脈拍100-110回/分以下で無症状なら問題なさそう、程度しか言えないと思います。

 

 

 

 

 

 

⑤最後に

 

結局は症状が大切なので、徐脈も頻脈も症状がなければ大丈夫そうだが、一度かかりつけの病院で相談しましょうとまとまるかと思います。

 

前に、「以前から脈が遅いだけど大丈夫か」という相談を受けたことがあり、実際病棟でもよく相談を受けます。

 

「前から脈が遅くて症状がなければ大丈夫だと思います」と答えることが多いのですが、よく相談を受けるためブログにしてみました。

 

 

 

 

この記事が少しでも参考になっていただけたら幸いですし、安全を保障しているわけではないため、少しでも体調に違和感を感じたら早めに医療機関に相談することをお勧めします。

 

 

これ、首かいてもらうのを待ってるらしいです(笑)

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