循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

健診を受けていれば病気は見逃さないか?

こんにちは、うしです。

 

 

 

おぎやはぎのおぎさんが腎細胞がんになったとニュースになっていましたね。

残念なことでありますが、報道ではこのようなことを言っていました。

 

「おぎさんは病院好きで、しっかり健診など検査を受けていた。今回は片頭痛の入院でたまたま見つかった」

 

不謹慎ながら、(早期に見つかって)ラッキーだと思いました。

 

 

 

 

そもそも健診の目的や、何がわかるか(何がわからないか)などを率直に書いていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

●健診の目的

 

これは字のごとく、健康であるか診断する、ということで、まあその通りなのです(笑)

 

ただし、そもそもの健診の目的というのは、

 

公衆衛生的(集団的)に死亡率を減らせるか、というものが本来の目的であり、

 

上記の範疇で早期発見して効果があるのか(効率的か)、ということが大切であり、

 

医療対効果も重要です。

簡便で非侵襲的で安くできることが重要です。

(早期発見早期治療で税金での医療費も安くできるかどうか)

 

裏を返すと

本来はあなた方個々の健康に言及した検査ではないということになります。

 

これらに関しては、次からの項目でも説明します。

 

 

 

 

 

●健診の項目

 健診にも種類があり、細かい内容は様々ですが、通常は一般健診の内容を踏襲すればいいかと思います。

それ以外に女性の場合だと乳がん検診と子宮頸がん/子宮体がん検診などがあります。

 

ちなみに健診とは、総合的な病態評価のことで、検診とは特定の病態評価のことを指します。なので一般のものは健診であり、乳がんなどの特定のものは検診になりますね。

 

一般的な内容は以下の通りでよいかと思います。

以下のものは当院(関連病院)でいつも施行されているもの+オプション(検診として施行すると死亡率が下がるなどの効果が立証されており、患者さんにお勧めしているもの)を主に踏襲しました。

敢えて感覚的(経験談的に)に書いてみました。

 

問診診察

「そういえば〜」のような症状があれば簡単な相談はできます(受診したらいいかなど)。無症状の身体診察でわかることは多くはありませんが、心雑音は比較的見つかりやすいです。心臓の無症状の弁膜症が見つかることはあります。

 

血圧(脈)測定

高血圧があるかわかります。健診では稀ですが、ひどい徐脈(頻脈)があり、「そういえば数日前から体調悪かった」のような例は聞いたことあります。

 

採血検査

貧血や、肝酵素異常、白血病を疑わせる白血球数などがわかります。腎臓の濾過の機能をみる腎機能は有料オプションらしく、通常だと入っていないようです。毎年健診受けていたけど気がつけば透析間近のほどの末期腎不全という方も見たことあります。

1回の採血には反映されない病気が多く、採血が大丈夫だから大丈夫とは言えないと考えた方がいいとおもいます。

 

尿検査

健診では、血尿とタンパク質尿を中心にみることが多いです。どちらも異常がある場合は膀胱がん糸球体腎炎(腎臓の炎症の病気)を評価できます。

こちらもいい検査でどちらも正常だと安心感がありますが、腎細胞がんなどは尿検査にでないことも多いです。

 

胸部レントゲン

主に肺結節影(≒肺がん評価)と、心拡大(心臓病)の評価が中心になります。特に肺がんは早期発見が重要なので大事な検査ですが、小さいものや心臓や横隔膜の裏のものは見つけにくい(見逃しやすい)です。

心拡大も無症状で心拡大だけで病気を早期発見する例は多くはありません。

 

心電図

心臓の不整脈やその他心房や心室の異常を見ます。異常があった場合何が異常から精査しないとわかりませんが、異常なしの場合は割と信ぴょう性が高いです。

ただし、後述する狭心症の評価や一部の心臓病に関しては病気があっても心電図は全く正常ということも多いため注意が必要です。

 

胃カメラ

主に胃がんを早期発見します。その他ポリープや胃潰瘍、胃炎なども見つけることができます。特殊な胃がん以外は見逃しにくく、胃の粘膜は入れ替わりが激しいため毎年の検査が推奨されています。

 

バリウム検査

胃カメラの代わりにバリウム検査もできますが、こちらは直接カメラで見るのではなくバリウムを飲んでのレントゲン撮影になるため、精度は大幅に落ちると考えてください。

 

便ヘモ

便中の血を検出します。胃からの血は大腸まで届きにくく胃カメラとの組み合わせが有効です。割とちょっとした血でも反応するため、痔などがあるとそれだけで陽性と出てしまうことが多いです。

便ヘモが陽性であれば大腸カメラ、という流れが多いです。

 

大腸カメラ

その名の通り大腸のカメラで、胃カメラよりもさらに侵襲や負担が大きいです。しっかり便の処理をすれば見逃すことは少ないですが、いずれにしても胃カメラと合わせても小腸は観察できないです。小腸の場合は小腸カプセル内視鏡などが必要です。

大腸がんの他に大腸ポリープの観察ができます。5mmをこえると将来的な大腸がんのリスクがあるため、専門医と相談が必要です。

 

腹部エコー

60-65歳以上の喫煙男性の場合、集団で実施すると腹部大動脈瘤を検出し、集団の予後が改善されたという報告もあり、オプションになりなすが上記に当てはまる場合お勧めいたします

合わせて脂肪肝や肝硬変なども見ることができ、非侵襲的なのでいずれにしても悪くはないと考えています。

 

乳がん検診

こちらは専門外かつ乳腺担当の先生がやっているため詳しくはわかりませんが、乳がんも早期発見が大切なので実施が望ましいです。

 

子宮頸(体)がん検診

子宮頸がんが標準で、子宮体がんがさらにオプションになります。とりあえず子宮頸がんは若年でも発症し、早期発見治療が推奨されているため、施行推奨されています。

 

前立腺(PSA)

採血で前立腺のホルモン(腫瘍マーカー)をオプションで検査することができます。泌尿器科の先生はよくやっていますが自分はあまり検査提出したことないです。

採血だけで検査でき、比較的鋭敏なため、お勧めはできると思います(あくまでオプション)。

それ以外の腫瘍マーカーは、よく巷で「採血からがんがわかる!」とありますが、わかりません!検査の精度や解釈が難しく、ただ不安になるだけなのでお勧めはできません

 

 

ちなみによく脳ドックを受けたいという方がいらっしゃいます。頭部MRI検査のことだと思います。

脳ドックを受けてハッピーになるとはあまり考えていないため、自分は止めもしませんがお勧めもしません。

おそらく、脳動脈瘤(くも膜下出血の前兆)か、非常に珍しい(無症状の)脳腫瘍の早期発見にいいのではないかと思います。

特に脳動脈瘤が早期に見つかるのは素晴らしいことだと思います。

実際は、それよりも古い脳梗塞の痕が見つかり(無症状であれば薬物介入は不要という意見が強い)、それで不必要とも言える抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)が始まるケースが多い印象です。

自分の知っている範疇では、脳ドックをして、脳動脈瘤が早期に見つかり、社会全体の死亡率が下がったというデータは聞いたことないためお勧めするものではないと考えています。

(頭部MRIはやや高額なので、健康な社会全体に施行するほどの医療対効果がないというのが正直なところと思われます)

しかし、家系(遺伝)で血縁者がくも膜下出血で亡くなったなどの家族歴があったり、単純に社会全体のうんぬんではなく自分の健康が心配で自己負担で構わないのであれば、脳ドックを受けることは全然良いと思います。

 

もし症状があるのであれば脳ドックではなく脳神経科受診するべきです。

 

 

 

 

 

 

●健診で見逃しうる病気

 上記の順に、見逃しうる病気を挙げていきたいと思います。

 

まず採血では、肝臓はB型肝炎などの潜伏の場合は通常の採血では見つかりません。C型も同様のことがあります。ウイルス抗体が必要になります。

白血病も、特に悪性リンパ腫などは採血だけではわからないことが多いです(リンパ節が腫れる病気なので)。

採血では、見つかったらラッキー程度と考えるのが妥当です。

 

尿検査では、持続的な腎炎などの場合はまず血尿などでわかると思いますが、今回みたいな腎細胞がんは進行しないと見つからないと思います。

 

レントゲンでは上記の通り、心臓や横隔膜の裏にある影は非常に見つかりにくいです。側面像をとっても難しいことが多いです。

 

心電図と合わせて心臓病は、無症状でレントゲンと心電図(と聴診で心雑音)が異常なければ多くの病気はクリアできますが、狭心症はなかなか難しいです。

狭心症とは冠動脈という心臓を栄養する血管が細くなり、労作時に胸痛などが出る病気ですが、無症状のこともあります。冠動脈を簡易的にみる方法はないため、精密検査をしないとわからないことが多いです。

 

また健診のウェイトを占めるのががんの早期発見ですが、腎細胞がんや悪性リンパ腫に加え、脳腫瘍や膵がん、卵巣がんなどは症状も出にくく、早期発見が難しいです。

 

胃カメラ・大腸カメラはもちろん、腹部エコー(大動脈瘤)や婦人科関係や前立腺などの疾患特異的(疾患に合わせた)な健診も、小さいものの場合は見逃しうると考えてください。

 

 

 

 

 

●少しでも疾病を見つけるためには

 

健診は、極力見逃しないように少しでも怪しければ再検査!にしていますが、

それでもそもそも健診の目的は集団の死亡率を下げる(もしくは医療費を下げる)ことが目的であり、

数百万人のうちの数例の見逃しは致し方ないと考えるべきです。

 

そのため症状があればもちろん、なくても毎年の健診や、家族歴や他の基礎疾患があれば定期的な通院が望ましいです。

 

他に、肺がん検出のため、低放射線での肺CT検査が行われてきています。CTはレントゲンに比べて圧倒的に検出力が高いため(何かあるかどうかはほぼわかります)、非常に有効と思われます

(全員に行うにしては医療費と被ばくの問題がありますが)

 

卵巣がんについては、ルーチンで経腟超音波検査を子宮頸がん検診で行う施設もあります。

 

膵がんは精密検査をしても診断が難しいことがあり慎重な評価が必要です。しかしCTで比較的評価は可能と考えています。

 

まとめになりますが、画像検査(CT/MRI/エコー)+胃カメラ/大腸カメラで白血病以外のほぼ全ての悪性腫瘍がある程度の評価は可能です。

 

現時点では一部自費項目がありますが、推奨される健診に加え、脳ドックと低放射線の肺CT検査を組み合わせるとほぼ全て網羅できるのではないかと考えました。

 

ただし膵がんなどは糖尿病採血で見つかることもあります。

 

 

自費ということは推奨しきれないということになります。現時点では、では上記の検査で全て網羅しても、一体それを何年ごとに施行したらいいのかはわかっていません

 

個人的には、それこそコロナが落ち着いたあとなどで、科学的根拠を持って、ある一定の期間ごとに、全身の超低放射線のCT検査などが健診に取り込まれる日もくるのではないかと思っています。

 

そんなものはないので、やはり今は、

通常の健診を毎年受け、それ以外のオプションのものも可能な範囲で受けながら、体調が悪いと感じた場合はその都度受診し、医師に相談するのがいいのではないかと考えます

 

 

 

 

 

うちのインコも昔受診したことがありますが、考え方が思った以上に人と同じでびっくりしました(笑) 

 

f:id:ushi-sensei:20200815021138j:image