こんにちは、うしです。
今回はスマートニュースのアプリのトップで以下のような記事があったので、自分循環器内科なので心筋梗塞についてほんの少し語ってみようと思います。
知らないと後悔する「心筋梗塞」の意外な予兆とは? | 放っておくとこわい症状大全 | ダイヤモンド・オンライン
まあこの記事自体は、その本の紹介なんでしょうが。
医療者も非医療者も楽しめるように書くつもりなのでよければ最後までお願いします。
またこんなニュースもありました。
人気男性タレント・小鬼が36歳で死去、自宅で心筋梗塞か、日本のバラエティーにも出演|レコードチャイナ
自分は芸能にも疎くよく知らない方ですが、このようなことについても少し交えていきたいと思います。
急性心筋梗塞とは
急性心筋梗塞とは、心臓を栄養する血管の冠動脈(合計3本ある)が急性に詰まってしまい、心筋(心臓)が梗塞(壊死)する病気です。
比較的突然-急性に胸や背中が痛苦しくなり、吐き気や冷や汗が出たりします。背中から肩-下顎にかけて放散する人もいます。
数日前から労作時に胸痛が出るような前駆症状がある方もいます。
似た病気で狭心症というものがあり、こちらは冠動脈が比較的徐々に細くなり、労作時中心に血流(酸素)が不足に胸痛が出る病気です。
狭心症は典型的な例では、動いたときに胸が苦しくなり、安静にすると痛みがなくなることが特徴です。
狭心症が進展すると心筋梗塞になるわけではないことが多いですが、わかりやすくそう説明することもあります。
どちらも(語弊はありますが)、カテーテル治療がスタンダードにはなっています。
カテーテル治療とは、手や足の動脈などからシースという筒のようなものを挿入し、心臓の冠動脈までカテーテルという管を運び、造影剤を流して検査を行い、最終的にはバルーンという風船で広げたり、ステントという金属の筒を留置したりします。
(これらについてはまたそのうちブログで書きます)
心筋梗塞の原因・メカニズムについて
一般的には不安定プラーク(柔らかいコレステロール)が破れ、そこに血栓(血の塊)ができて急速につまりことが原因と言われています。
カテーテルをいつも見ているものから言うと、プラークと血栓の比は人それぞれことなり、それによってカテーテルで主にレーザー照射や血栓吸引で治療するか、バルーンで拡張して治療するか変わってきます。
そのため、心筋梗塞の原因は主には動脈硬化で、喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病などがリスクとなり、あとは遺伝的な意味で家族の心筋梗塞の既往もリスクになりえます。
ただし、一部の心筋梗塞では、川崎病の名残(後遺症)だったり、冠攣縮(血管の痙攣)だったり、心臓から直接血栓が冠動脈へ飛んで行ったり(血栓性ではなく塞栓性と僕たちは呼んでいます)、冠動脈解離だったり(血管の内膜が裂けてしまい、末梢への血流がなくなってしまう)、血管炎や膠原病(自身の免疫が悪さして炎症がおきる病気)だったりするものもあります。
これまでは一般的なことを書きましたが、
ここからがブログらしい本題に行きます。
心筋梗塞は若年には起こらないのか
教科書になんて書いてあるか知りませんが(循環器専門書以外の医学書は個人的には当てにしてません)、だいたい感覚的には40歳以降(上は100歳まで)の感じです。
もちろん、高血圧、糖尿病、脂質異常症があり、内科通院自己中断していて数値が悪い方が多いですが、意外と特に何の病気もしていなくても血管がかなり傷んでいる(体質や遺伝なのでしょうか)方もいらっしゃいます。
いずれにしても、動脈硬化の成れの果てが心筋梗塞なので、基本30歳以下では通常は起こりえないと思われます。
ただし、機序で書いたように、通常ではないメカニズムで起きた場合は一概に言えません。
(冠動脈解離の場合はそれ自体が比較的稀ですが、中年の女性が圧倒的に多いため、これも30歳以下は稀です)
30歳以下でも、川崎病の既往や家族性高コレステロール血症、また他の珍しい基礎疾患(炎症や血栓が起こりえる病気)がある場合には心筋梗塞は起こりえます。
あまり30歳以下で心筋梗塞を疑うようなことはないですが、その場合は上記を最低限問診等で確認しています。
2つ目のニュースの方は36歳とのことで非常に若く、違和感を感じます。
(これについてはブログの最後に記載してます)
心筋梗塞の診断は容易か
心筋梗塞の診断は非常に難しいです。
というのもの、典型的な胸痛などあり心電図で陽性であれば診断自体は比較的容易ですが、①典型的な症状がないことが多い、②心電図で陰性になることがあるため診断は非常に難しい病気と考えています。
①について、糖尿病や高齢者(特に女性)の場合は胸痛がないことが多いです。心臓の細い神経がやられているからでしょうか?特に糖尿病が進んだ状態だと、胸痛など一切なくても心臓の血管がボロボロなんて例もよくあります。
②もよくあり、心電図とって異常が見られなかったが実は心筋梗塞という例もあります。
これについてはやや専門的ですが、
(1)回旋枝の梗塞のため心電図に移りにくい
(2)血管の完全閉塞ではないため心電図が正常に戻っている(胸痛も改善していることが多い)
(3)心臓の冠動脈にやや奇形あり心電図にうつりにくい(例 右冠動脈低形成の右室梗塞)
(4)発症初期すぎてまだ心電図変化が出ていない
(5)自然に詰まった冠動脈が再灌流した
(6)もともと慢性的に閉塞し、周囲からヘルプの血管が育っていたため通常の冠動脈とは違う形になっている
などの理由があります。
そのため心筋梗塞はくも膜下出血と並び、絶対見逃してはいけない疾患なのに、見逃しうる病気なのです。
自分も他科の定期受診日にたまたま心筋梗塞になっていたが症状全くなく、看護師さんの血圧測定のときの脈がいつもより遅いことで気が付いた心筋梗塞も診たことがあります。
心筋梗塞で何故人は死にうるのか
心筋梗塞=死と思わている方もいるかもしれません。
1つ目のニュースでは「6時間以内にカテーテル治療をしないと致死的」とありますが、これも間違いです。
心筋梗塞の死亡の原因として、致死性不整脈(心室細動か心室頻拍か完全房室ブロック)、心破裂、心不全、心原性ショック状態などが挙げられますが、不整脈が圧倒的に多いです。
次に多いのは、超高齢者がほとんどですが、老衰のような、ふっと息が止まるパターンかと思います。
何が言いたいかというと、心筋梗塞を患った場合、いつ不整脈が出てもおかしくないため、いつ亡くなってもおかしくはありません。
不整脈については電気ショック等で改善が見込めるため、病院搬送後は必ずDr.が1人はすぐ横で監視していることが望ましいです。
(自分はたいていカテーテル室の準備をしているため外来医に依頼していますが)
死因:心筋梗塞は本当なのか
このニュースの方の死因については違和感があります。
さすがに「滑って転んだ拍子に(36歳が)心筋梗塞になり亡くなった」とは思えません。
ありえるとしたら、遺伝性の不整脈の難病があり、突然不整脈が出て倒れた、などではないでしょうか?
他施設、ましては海外などはどんな感じかわかりませんし、誤解語弊を与えてはいけませんが、外来医として、死亡した方の死因の究明は非常に難しいです。
まず院外で患者が死亡した場合、通常であれば24時間以内に医師が診療していない異状死の場合、まず警察が事件性があるかを評価します。
事件性があれば最大限の究明にあたると思いますが、事件性がない場合(病死と判断した場合)、死因究明は自分たち医師に委ねられます。
たいていは心臓マッサージをされており、亡くなってから一定時間が経っていることが多いため、死亡後のCT画像など施行しても判断つかないことが多いです。
また病死と警察が判断した場合、病理解剖を行うかなどは遺族の意向と相談になりますが、たいていはあまり希望されません。
自分は可能な限りの病歴を聞き、判断つかなければ不詳、もしくは心臓突然死と死亡診断書に記載することが多いですが、医師によっては心筋梗塞と記載する人もいます。
個人的には、死因:心筋梗塞と診断された人の一部は違う病だと思っています。
(もちろん診断がつききれなかったため心筋梗塞が一番疑わしいと医師が診断しているのですが)
2つ目のニュースの場合、これから解剖結果が出るとのことですが、はっきりした原因はわからないのではないかと思っています。
最後は少し重たい感じになってしまいました。
今日のインコ、別に苦しいわけではなく、たまたま瞬きしてただけです(笑)