循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

胃ろうの本当の適応

こんにちは、うしです。

 

 

 

前回に引き続き今回は胃瘻(胃ろう)を中心に、口から栄養摂取不良なときの治療法と、本来すべき選択を、ブログだからこそ書ける内容として書いていきたいと思います。

 

医療関係者はもちろん、一般の方も、また家族に同様の選択を迫られてる方がいらっしゃったら参考にしていただけたら幸いです。

 

特にがんなどの終末期には、以下の3つの方法に皮下点滴や経口摂取のみかを相談することが多いので、まず用語から書いていきます。

 

 

 

 

 

 

●胃ろうとは

 

胃に穴を開けて、胃へ直接点滴や注入などで栄養や水分、薬剤を投与する方法のことを言います。

イメージはこんな感じですね。

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 作成の方法としては、外科的な回復手術ではなく、胃カメラを用いてレントゲンを見ながら胃に穴を開ける形になります。

 

メリットは、一度作ってしまうとその後は比較的楽と言うことで、デメリットは手術に近い形式をとるため侵襲や合併症などが挙げられます。

 

抜くと比較的早期に瘻孔(穴)は閉じていきます。だいたい半年ごとにPEGというカテーテルを交換します。

 

 

 

 

●経鼻胃管とは

 

経鼻胃管はその名の通り、鼻から胃へ管を入れ、鼻から管を通って胃に栄養や水分、薬剤を投与する方法(のための管)を指します。

 

胃痛や貧血のときに胃から出血していないかの検査に使用することもできます。

 

胃ろうに比べて侵襲は小さいですが、鼻から常時管が入っているためいずかったり、嚥下の邪魔になったりします。

 

本来は鼻などに潰瘍ができてしまうため、確か1週間ごとに交換(右→左→右)が推奨されていますが、実際は挿入が結構苦痛だったりするため、定期的に交換していない例が多い印象です。

 

 

 

 

●中心静脈栄養とは

 

首や足の付け根、鎖骨下などから中心静脈カテーテルという少し太い点滴の管を挿入したり、中心静脈(CV)ポートという入口を鎖骨下に作ったりなどして、少し太い管から点滴で栄養を投与する方法です。

前回の点滴のブログも参照ください。

 

メリットは、消化管の栄養(胃ろう、胃管、経口)がためらわれるときに(誤嚥など)はいい方法ですが、

デメリットとして、圧倒的に消化管での栄養に比べて生理的ではなく、長期的には予後はよくないです。

これはこれで作成のときの合併症(動脈穿刺・出血)などのデメリットがあります。 

また消化管と違って本来無菌の場所なので、感染を起こすことがあります。

 

中心静脈カテーテルに関しては、教科書的には交換は不要ですが、感染を懸念して、何らかのきっかけ(発熱したなど)で交換するケースがあります

 

 

 

 

 

●皮下点滴とは

 

通常末梢点滴は静脈(血管)に針を刺すのですが、お腹などの皮下に針を刺し、皮下から点滴する方法です。

 

一見「そんなんで吸収するの?」と思われがちで自分の循環器病棟でも指示すると少しびっくりされますが、ゆっくり滴下すると意外ときちんと吸収されます。

薬剤でも刺激性の少ないものであれば投与できるものもあります。

 

ただし、栄養成分は刺激性が高いので、あくまで水分(と電解質)の補給目的になります。

 

口から水分も取れないし、点滴も胃ろうも胃管も何もしないけど、このままではミイラのように脱水になってしまう、という終末期などで使用されることが多いです。

 

 

 

 

 

 

●一般的な栄養摂取の誘導の仕方

 

個人的主観があるのと、自分の経験年数の少なさ(と施設間での違い)で偏った意見になりかねないですが。。。

 

何らかの原因で口からの水分や栄養摂取が不十分のときに、よく主治医の医師から例えば以下のような選択肢で患者家族と相談することが多いです。

 

【今後の栄養摂取の方法】

  末梢点滴栄養…水分〇、栄養✗、侵襲〇

  中心静脈栄養…水分〇、栄養△、侵襲△

  経鼻胃管  …水分〇、栄養〇、侵襲△

  胃ろう   …水分〇、栄養〇、侵襲✗ 

「胃ろうを作りますか?作らないなら経鼻胃管や中心静脈カテーテルを挿入しますか?それとも末梢の点滴だけで無理しないようにしますか?」

「胃ろうなどを作ると寿命は延びると思います。末梢点滴の場合は点滴のルート確保ができなくなった場合はそこで終了します(もしくは皮下点滴します)。」

「中心静脈カテーテルを挿入する場合は栄養としてはあまり生理的ではありません。感染のリスクもあります」

 

自分としては悪い例(言い方)にしたつもりですが、何が正しいと一概にも言えず、あくまで一例です。

 

これを踏まえてご家族の方にどれにするか決定してもらうことになります。

 

 

自分の親戚も一人いましたが、医師は家族に主体的に決定してもらい、希望された治療をすればいいのである意味楽ですが、胃ろうを選択しないと家族が自ら寿命を縮めたと感じられてしまうため、責任を過度に負われることがあり、そのため少し無理して胃ろうなどを希望されるケースが散在されます。

 

 

 

 

 

 

●胃ろうの適応

 

 胃ろうの適応とはどうなっているのでしょうか?

だいたい以下にまとめられています。

 

①嚥下・摂食障害

②繰り返す誤嚥性肺炎

③炎症性腸疾患(クローン病など)

④減圧治療(腸閉塞など)

⑤その他の特殊治療

 

つまりは、③-⑤のような特殊な治療に使用することもあるが、

主には食事がとれない誤嚥するときに適応と言えますね。

 

 

 

 

 

●胃ろうの禁忌

 

逆に胃ろうの禁忌には以下のように様々なものがあります。

 

①内視鏡検査が禁忌(消化管穿孔や食道病変・狭窄など)

②胃前壁を腹壁に近接できない

③出血傾向

④消化管閉塞

⑤大量の腹水、⑥高度肥満、⑦著明な肝腫大(門脈圧亢進)、⑧腹膜透析、⑨妊娠

⑩横隔膜ヘルニア

⑪全身状態不良、癌性腹膜炎

⑫胃手術既往

⑬説明と同意が得られない

 

いろいろありますが、つまり

内視鏡での作成が技術的に可能で、出血などハイリスクではなく、生命予後が多少あれば、同意が得られれば禁忌ではない(胃ろうを作ってよい)、とも言えますね。

 

 

 

 

 

 

●本当の選び方(胃ろうの適応)

 

上記の通り胃ろうの適応ではないというのは難しく、低栄養で本人家族が希望した場合、医療者は胃ろうを拒否することは難しいのです。

 

でも全例お勧めするわけではありません。ここからは主観が強く入りますが、自分の意見を中心に書いていきます。

 

まず一番大切なのが、今後改善しうるかどうか、だと思っています。

 

 

例えば脳梗塞の場合、症状の程度や指示が理解できるかなどが重要ですが、リハビリである程度よくなる可能性が見込めます。このよくなる部分については嚥下機能も改善することがあります。

脳梗塞のリハビリ自体は月単位であり、また長期間の経鼻胃管は苦痛などを伴うため、全体的によくなりそうな脳梗塞は胃ろうの良い適応ではないかと考えています。 

 

改善しがたい病気が背景にある場合胃ろうの適応は乏しいと考えています。

 

一番改善しがたいのが老衰かと思います。

徐々に衰弱し、口からごはんを全く食べなくなった終末期に、強制的に胃から栄養を与えると、それはもちろん寿命は延びると思いますが、人として自然な形ではなく、完全に延命行為ではないかと思います。

またそのような人工的な延命をすると、感染などのトラブルで予想外の終末期を迎えることが多いです。

口から食べられないというのは1つの寿命なのではないかと自分は考えています。

 

あと本人の意思表示が大事かと思います。

 脳梗塞後も自身でリハビリを頑張ることが重要であり、本人の疎通がとれないような脳梗塞ではリハビリでの改善はあまり期待できません。

本人の意思でない胃ろうは、病状的に意識が戻る可能性がないようであれば、家族の希望≒延命行為に近いのではないかとも感じます。

 

 

 

 

 

●疾患別の自分の考え

 

 最後に、上記のまとめとして、疾患ごとのお勧め?を主観で書いていきます。

 

がん

堀ちえみさんで話題になった舌がんなどの口腔-食道-胃のトラブルで、根治治療が狙えて、とりあえず当面の栄養を確保しなければならないのであればよいかもしれませんが、そもそも消化管トラブルでは胃カメラ(胃ろう)は禁忌であり、むいてません(経鼻胃管で十分です)。

それ以外のがんの場合、経口摂取できない≒がんで衰弱していることが多く、その場合だいたいがんで比較的短期の予後が規定されているため、延命行為的な側面が強く、あまりお勧めできないと思っています。

 

誤嚥性肺炎

誤嚥して肺炎になるため、経口での食事を止めて胃ろうを作るというのは一見すごく理にかなっているようにも見えます。実際に誤嚥性肺炎を繰り返しているため胃ろうを作られるケースは多いです。

しかし(詳細なデータは忘れましたが)、認知症患者で胃ろうを作っても誤嚥性肺炎の不具合は減らせなかったというデータがあります。

そもそも、嚥下機能が低下すると食べ物以外にも常時唾液なども誤嚥します。また胃ろうから栄養を与えても、むせたり嘔吐したり、逆流したり横になったりすると容易に誤嚥します。

誤嚥性肺炎というのはそもそも嚥下の機能が低下(≒老衰)という側面が強く誤嚥性肺炎の予防目的で胃ろうは自分は推奨できないと思っています。

 

脳梗塞

これは上記の通り、リハビリで嚥下機能も含めて改善してくる可能性があり、積極的に胃ろうを考慮してもいいかと思っています。

ただし、脳梗塞の後遺症が大きい場合(もしくは認知症と合併したり脳梗塞が重なったり古い脳梗塞がメインであったり)、リハビリで改善する可能性は低く、どちらかというと誤嚥性肺炎予防(=胃ろう不適切)になることも多いです。

また疎通可能かが大事かと思います。というのも自身の意思で胃ろうを希望するくらい疎通ができないとリハビリの成果が期待できないからです。

総合的には、ケースバイケースといった感じで、症例ごとの相談になると思います。

実臨床では、まずは経鼻胃管で様子見ることが多いです。やや長期になっても胃管で改善してくれば普通に経口摂取可能で、改善してこなければそもそも胃ろうを作っても誤嚥リスクも高く手術リスクもあるため、引き続き経鼻胃管の入れ替えで生涯を迎えることもあります。

 

人工呼吸管理中(肺疾患or植物状態)

気管切開して長期間人工呼吸管理をしている方がいます。他の施設はわかりませんが、胃ろうの適応となることは少ないと感じます。

というのも、人工呼吸器という機械がつながれていて疎通もなかなかとりにくく、今後の全身状態としての改善もなかなか期待しがたいからです。

ただし、点滴での栄養だとどんどん衰弱していってしまうため、こちらも経鼻胃管で比較的中長期維持することが多い印象です。

ただし、気管切開の方法や原疾患などでまだ人工呼吸器を使用しているが比較的元気で会話などもできる方も中にはいます。そのような場合は経鼻胃管の苦痛緩和も合わせて胃ろう増設は考慮されるかもしれません。

 

抜管後(人工呼吸器離脱後)

もちろんケースバイケースですが、こちらは上記に比べて抜管できた=改善傾向の可能性が高く、今後も状態がよくなっていく可能性が高いです。

また比較的長期間気管挿管をしていると、嚥下機能が一時的に非常に弱っている可能性が高く、このリハビリに時間がかかるのと、経鼻胃管を挿入していると嚥下のリハビリに多少なりとも邪魔になります。

人工呼吸器離脱しているときはたいてい意識もしっかりしていることが多いため、このまま状態改善が期待され、抜管など一時的に嚥下機能が落ちている場合、胃管で不具合があるのであれば、胃ろうは十分ありな選択肢ではないかと考えています。

ただし、たいていは経鼻胃管→経口摂取できることが多く、そこまで長期化するというのはもともとの背景疾患もあることが多いため、やはりケースバイケースで相談が重要になります。

 

神経難病

神経・筋肉の障害で嚥下機能が落ちてくる場合は胃ろうを作るかの重大な決断をすることがあります。胃ろうを作ると寿命は幾分か延びると思いますが、同時に原疾患の苦痛を長く感じさせることが予想されます。

このブログで是非を言うのはおこがましいので書きませんが、難病と家族と主治医がどう向き合っているかによるため、ケースバイケースと思われます。

このような状態の場合はもちろん誤嚥性肺炎予防の側面も強いですが、神経難病に対する治療ともとれますし、寿命というには早すぎる(少なくても病気が発症したときは)ことが多いため、良い悪いの問題とは言えないと思っています。

 

老衰

老衰は上記したように、延命行為になるためお勧めしがたいです。

 

 

 

 

胃ろう全体としては、やはり、

身体が改善していくかどうか、それを本人が希望しているかを重要視し、

あとは家族と主治医で相談していくしかないと思います。

 

 

 

 

 

 

 

あくまで栄養療法を胃ろうを中心に個人的考えを書いてみました。

 

延命行為については、何をそうとらえるかは個々で違いますし、対象となる年齢によっても違うと思います。

(10代で植物状態になっても延命行為とはいいがたいと思います)

 

もし患者さん立場の人が見られて「主治医と言っていることが違う!」なんてあれば恐縮で申し訳ありませんが、参考になれば幸いです。

 

 

 

 

インコも前回よりも肥えています。

 

 

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