循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

その点滴を使う本当の理由

こんにちは、うしです。

 

 

 

今回は、点滴について書いてみたいと思います。

非医療関係者向けに書くつもりですが、医療関係の人にも共感もらえるかもしれないので、よかったら最後までよろしくお願いします。

 

点滴の細かい使い方というよりは、水分、栄養摂取という側面で書くつもりです。

 

 

 

 

 

 

●点滴の種類   f:id:ushi-sensei:20200821112620j:image

 

とは言ってもおおよその点滴の種類を書かないと述べにくいため、書きます。

非常にざっくりですが。

 

開始液

ソリタ1号液など。カリウムが入っていない点滴。病状わからない人にとりあえず無難に使えるようなイメージです。

 

維持液

ナトリウムやカリウムなどほどほどに入っておりこれら電解質補給という意味では1500-2000ml(3-4本)/日使用すると1日分まかなえるような、維持期の点滴。

 

細胞外液

細胞外(=血管内)の組成に近い点滴。ナトリウム濃度が高く血管内に残りやすく血圧などを維持しやすい。生理食塩水(=塩水)など。

 

ブドウ糖液

細胞外液とは逆に、細胞内に入っていく点滴。ブドウ糖はすぐに体内で代謝されるためつまりはただの水のようなもの。

 

高カロリー輸液

中心静脈カテーテル(もしくは中心静脈ポート)から挿入する、少し栄養濃度の高い点滴

 

一部語弊もありますが、最低限の理解にはこれでいいかと思います。

これ以外にもたくさん種類はあります。

 

 

 

 

 

 

 

●点滴の目的と誤解

 

よく外来で、発熱や胃腸炎の患者さんに「点滴してほしい」と言われることがありますが、通常の点滴にはほとんどカロリーは入っていません

多くて200kcal程度でおにぎり1個分以下です。

しかも、後述しますが、本来エネルギーは腸からとるべきなので、点滴での摂取は全然生理的でなく、有効活用しにくいです。

点滴1本(500ml)=ポカリスウェットのようなものです。

口から水分を取れれば外来で体調不良時の点滴は基本的に不要です。

 

患者さんには酷ですが、点滴を希望される場合には

 

「点滴してもいいですが、ポカリ1ホン飲むのとほとんど同じで針刺すので痛いし時間もかかるから家でゆっくり休んだ方がよくないですか?」

 

と伝えています。それでも希望される場合にはしていることが多いですが。

 

点滴の主な目的は、脱水補正電解質補正と考えてください。

なので水分が口からとれないような状況や、採血で電解質異常があるときに点滴を呼応慮します。

 

あとは血圧低下時などは、とりあえず血圧維持のため生理食塩水などを使用することが多いです。

 

 

 

 

 

 

●点滴を使う本当の理由

 

①外来時の生理食塩水など

よく体調不良で来院し、すぐに採血採取と点滴開始されることがあります。

検査を行い緊急性がないとわかったときに帰宅方針となることが多いですが、その際に「点滴まだ終わっていないのですがいいのですが?」と聞かれることがよくあります。

これは上記のように血圧低下があり生理食塩水をいれることもありますが、基本的な目的はルート確保です。どういうことかというと、病状もわからず、急変などする可能性もあるため(または吐き気止めや痛み止めなど適宜注射の薬剤を使用する可能性があるため)、影響の少ない生理食塩水をとりあえず滴下しておいてすぐに薬剤をいけるようにしているということになります。

つまり生理食塩水を投与することには何の意味もないということになります。

 

 

②プラセボ効果

先ほど点滴はお勧めしなくても希望されたら施行することが多いと書きましたが、このプラセボ効果(治療効果があるわけではないのになんだか効いた気がすること)が結構大きいです

やはり点滴すると体調よくなるという良い思い込みがあるようで、特に心因性(気持ちの問題)が大きい状態のときなどには、点滴も有効活用することがあります。

 

③カロリー

通常の点滴ではカロリーは全然とれないと書きましたが、例えばビーフリード+イントラリポスのような比較的高カロリーの維持液+脂肪製剤の場合、最大で1000kcal程度通常の点滴から投与することができます。

ただし腕などの末梢からの投与になると濃度が高いため血管痛(血管炎)を起こしやすいです。

敢えて消化管を使用せず、中心静脈栄養という選択もしないでこれを使用するというのはかなり限定的で自分も数回しかありません。

(中心静脈カテーテルをいれることも希望されていないが、数日間しっかりカロリーをとりたい事情があり、点滴をいれやすい良い血管があるときなど)

 

④手術前後など

よく病院ごとのルーチンで点滴が入っています。主には①のルート確保と、手術中の水分摂取不可に対する軽い補充と、麻酔による血管拡張作用での血圧低下(血管内水分不足)などに対してと思われます。

 

⑤入院中の漫然とした点滴

よく肺炎など、何かで入院すると、点滴もセットでついてきます。

これにはもちろんいろいろ病態に合わせて理由があることがありますが、多くは体調不良で水分摂取ができず脱水の恐れがあるという理由で点滴を併用します。

また肺炎などの発熱疾患の場合、不感蒸泄という知らない間に皮膚や呼吸から蒸発していく水分も増加します。いつも以上に水分をとらないといけないこともあり、補充している感じです。

またこれらの点滴をどう管理していくかというと、多くの医者は食事量をみて点滴の1日量を増減しています。これは食事摂取減少=カロリー足りない=点滴必要という意味ではなく、食事摂取減少=食事とる元気もない=水分もきっと口から取れないだろう=点滴必要という意味で使用します。そのため、食事量も増えて安定していくと、点滴は減り次第に中止になることがほとんどです。

 

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●点滴のデメリット

 

特に入院中の患者さん家族より「点滴だけはしてほしい」 or 「点滴もしなくていい」などと点滴が治療の水準の指標になることがあります。

点滴のデメリットも考えてみます。

 

①疼痛                  f:id:ushi-sensei:20200821112704j:image

これは穿刺のときの疼痛です。これは意外と大事かと思っています。

というのも、点滴のルートの期限がだいたい2-3日です。たぶんそうしないと点滴漏れを起こしたり、②-③などを起こしやすいのだと思います。

点滴のルートを確保するのが難しい(血管がない)場合は期限なしで使用することもあります。

いずれにしても点滴のルートは消耗性なので、ダメになったら新しく針を刺してルートを確保しないといけません。

特に長期間点滴をするのであれば、だんだん点滴をとるのが難しく、何度も針を刺すことになります。

 

 

②感染、血栓症

教科書的には人工物なので、そこから感染したり、血栓という血の塊で血管が閉塞したりすることがあります。

実臨床で末梢の点滴から感染した人は自分は見たことがないです。血栓できた人はいますが臨床的には少し腕が腫れる程度でした。

ただし、後述する中心静脈カテーテルという太めの管の場合は比較的高い頻度で発生します。

 

③血管炎・血管痛

刺激性の薬剤はもちろん、刺激が少なくても点滴の血管が傷んで点滴漏れすると痛みを伴い、炎症を起こすことなどあります。

冷却程度で済むことが多いですが、重症だとステロイドを塗ったり注射したりすることもあります。

 

④神経損傷

比較的稀ですが、特に点滴のルートを確保が難しくなってくるとき、神経が近くても致し方なく穿刺することもありますし、意外な神経損傷をすることもあります。

しびれや痛みが比較的長らく続きます。

 

④喀痰増加、浮腫

特に呼吸不全や終末期に近い方に多いですが、点滴のベース量が多いと、特に肺が悪い方の場合は喀痰が増加します。ひどいときには痰詰まりを起こしやすくなるときさえあります。なので肺炎などの人は、尿路感染症(腎盂腎炎)に比べて少し点滴量を気持ち少なめにします

がんの末期の場合、点滴量が少しでも多いと全身がむくんできてしまいます。この場合も少なめにします。

 

 

 

 

 

●栄養摂取としての点滴の立ち位置

 

末梢の点滴でもカロリーがとれなくもないと書きましたが、カロリーを稼ぎたい場合は中心静脈カテーテルなどを首や足の付け根などから挿入し、濃度の濃い高カロリー輸液を使用します。

だいたい1パック使用すれば何も考えてなくても1000kcal以上稼ぐことができます。

終末期などの栄養摂取問題のときに1つの選択肢で出ることがあります。

 

自分は比較的好んで(というよりほかの選択肢が微妙なときに)早期から使用することがありますが、

 

大前提として、点滴の主な目的は水分と電解質でした。

中心静脈栄養だろうか、点滴の栄養はたかが知れていると考えてください。

 

確かにカロリー数は稼げるものもありますが、腸管を使用して栄養をとるということが非常に大切なようで、免疫や全身の栄養状態に大きく影響するようです。

細かいデータは知りませんが、腸を使った栄養から点滴中心の栄養に切り替わるとたいてい全身状態が急落します。

衰弱していくというよりも、穿刺部のトラブル(感染)や肺炎などの感染症になりやすくなる印象をもっています

 

いずれにしても、食事は腸からとるべきということです。

 

 

 

 

次回はこれに関連して、終末期の胃管・胃ろうの現実的な適応を、今日の点滴の話題と合わせて書いてみようと思います。

 

 

 

インコも第一弾です。

 

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