循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

胸水は循環器か、呼吸器か?

こんにちは、うしです。

 

 

 

今回は、永遠のテーマ(勝手に笑)である循環器か呼吸器問題について、「胸水の精査加療」について、循環器医の独り言として書いてみたいと思います。

 

胸水の基礎や鑑別から書いて行くので、皆さんよければ最後までお願いします。

 

 

 

 

 

 

胸水とは

 肺の外(胸腔内)にたまったのことを言います。

Twitterで少し話題にしてもらいましたが、肺をスポンジに見立てたとき、肺うっ血(=肺水腫)はスポンジがびしゃびしゃなイメージに対して、胸水貯留はスポンジが桶の水(=胸水)に浮いているようなイメージです。当然スポンジも少し湿りますが肺が悪いわけじゃないことも多いです。

 

無症状なことが多いですが、量が増えると肺がしっかり拡張できなくなり呼吸が苦しくなったりします。また肺そのものも悪いこともあるので、それもあって呼吸が苦しくなることが多いです。

また元々は肺~胸腔はスペースが(少し)あり、そこに水がたまるということなので、胸水の原因にもよりますが、他のスペース(腹腔内や足など)にも水がたまり、腹水下腿浮腫(足のむくみ)として現れることもあります。

 

 

 

 

 

 

胸水の原因

 原因には多数ありますが、主に以下の2つに分かれます。

 

漏出性胸水

いわゆる水漏れですね。心不全腎不全などで水分の循環排泄が悪くなり、血管の中の圧が高くなることで水漏れし、胸水がたまったりします。

また低タンパク血症で血管内の浸透圧が下がり、水分を血管内に保持する力が弱くなると圧がそこまで高くなくても水漏れすることがあります。低タンパク血症の原因としては、肝不全(タンパク産生低下)や腎不全でのネフローゼ症候群(腎臓からタンパク質が出てしまっている)、低栄養などが挙げられます。

いずれの原因も全身性のため、両側対称性に胸水貯留(両側胸水)になることが特徴です。

 

滲出性胸水

こちらは水漏れとは少し違い、炎症などで滲み出ているような感じですかね。広い意味で肺~胸腔内に炎症が起こっていると考えていいのではないかと思われます。

頻度的に多いのが、肺がんをはじめとする悪性腫瘍です。悪性リンパ腫などの非固形腫瘍でも胸水という形になることがあります。またよくアスベスト肺に続発したがんとして、悪性中皮腫という悪性腫瘍も胸水主体になることがあります。

次に肺炎などで胸水がたまることがあります。また肺炎の内側に膿の塊をつくる肺膿瘍や、肺には炎症はあまりなく、胸水が実は膿の塊という膿胸も広い意味で滲出性胸水になります。

 あとは結核性胸膜炎という、胸膜に結核の炎症がおよぶと一般的な細菌感染による肺炎・膿胸とは異なる治療が必要になります。

あとは稀な胸水の原因のものも多くはこちらの滲出性胸水になります。

 

 

 

 

 

胸水の精査加療

 まずは胸水そのものを見てみようということで、胸水穿刺をして胸水を抜いて調べます。ここで有名なLightの基準というものがあります。

 胸水TP/血性TP > 0.5 (TP=総タンパク)

 胸水LDH/血性LDH > 0.6

 胸水LDH > 血清LDH正常の2/3

その他にコレステロールなどを用いた補助診断基準もあったりします。

これら1つでも満たしたら滲出性胸水全て陰性なら漏出性胸水という基準で、なかなか精度が良いようです。

これらで漏出性胸水であれば血中タンパク・アルブミンを調べながら採血・尿検査で腎機能、レントゲンや心エコー検査で心機能をみて、悪いところを下がります。いずれにしても初期治療は利尿薬になります。

滲出性胸水の場合、もちろん画像的に肺がんや肺炎がないかを評価しますが、合わせて胸水の細胞診や胸水中のADA、ヒアルロン酸などの測定を行い、炎症の原因を探します。これで原因不明で、かつ悪化傾向であれば胸水ドレナージで廃液をして症状を改善させたり、胸腔鏡を用いて直接胸膜などを観察・生検など行ったりします。

 

 

 

 

 

 

 

胸水の診療の実際

 実際のところどうかというと、Lightの基準は結構微妙で。0.60基準なのに0.59なんてよくあります(この0.01の差に命かけていいのか…なんて(笑))。また胸腔鏡はもちろん、胸水穿刺もある程度胸水貯留していないと肺に針が当たってしまうので難しいです。

またもともと利尿剤を飲んでいたり、一度胸水ドレナージなどを行っていると検査にも影響が出ることがあります(利尿剤内服中だとLightの基準は偽陽性になりやすかったと思います)。

 また何科というと、調べてみないとわからないため、循環器内科呼吸器内科のどちらが診るべきか悩ましいです(普通は呼吸器内科だと思いますが、実臨床だと心不全の数が多いため、両側胸水≒循環器内科というイメージもあります)。

じゃあ間とって総合診療科かと思っていたこともありましたが、総合診療科はそれぞれの肺・心臓には専門科には及ばず、以下の専門的追加検査ができないため、胸水単独精査においては微妙だなと思いました。

しかもしかも悩ましいことに、それなりに調べても胸水の原因がわからず、外来で様子見ることもかなりあります。

 

 

 

 

呼吸器内科が胸水診療をすると

基本的には上記の胸水の精査加療のように、まずは胸水穿刺±ドレナージを行い、漏出性胸水であれば心不全疑い循環器内科相談、滲出性胸水であれば引き続き呼吸器内科で経過をみつつ、悪性腫瘍などの評価を行い様子見ることが多いと思います。

ある意味標準的な治療なのかもしれませんが、デメリットとして、心不全の場合は診断が遅れることも多く、また胸水ドレナージを行ったあとの心不全の利尿剤調整はやや難しいため、心不全の場合は全体的にごてごてになることがあります。

 

 

 

循環器内科が胸水診療をすると

 あくまで心不全 or NOTとして診療するためまずは利尿薬治療を行います(どっかのデータにも両側胸水であれば利尿剤で診断的治療を考慮とあります)。それで改善すれば漏出性胸水として、腎やアルブミンが問題なければ消去法で心不全になります。

またそれに並行して、心エコーなどを綿密にみて、本当に心不全か(かなり女々しく(笑))ジャッジします。

胸水は左心不全でも右心不全でも生じるため、心エコーで肺高血圧や左房拡大があるかや、IVCの腫大や三尖弁逆流などあるかを見たりします。それでも判断つかない(心不全を除外できない)ときは、右心カテーテル検査などを行い心機能がいいか悪いかをみることもあります。

心不全であれば問題ないのですが、心不全でない場合はデメリットとして、うっ血がないのに利尿剤で診断的治療をさせられ脱水にさせられ、結果的には不要なカテーテル検査までさせられる可能性があります。

また胸腔鏡(胸水が大量にないとできない)以外は自分たちである意味簡潔できてしまうため、(少なくても自分は)すぐに呼吸器科に転科せず、呼吸器的な精査を続けます。

 

 

 

 

 

 

まとめ~じゃあ誰がみるべきか

実際は、「肺がんで呼吸器科に加療歴がある」や、「循環器内科の先生へと手紙の頭に書いてある」といった、流れ・雰囲気が一番大きいです(笑)病院ごとに循環器と呼吸器の立場の大きさもあるかもしれません。

自分も人に言えるほど立派な診療をしているわけではありませんが、とりあえず、

 

両側胸水なら心不全の事前確率が高くまず循環器内科、片側胸水であればまずは呼吸器内科で精査

 

が一番落としどころなのではないかと思います。

そして大事なことは、入院加療中もどちらが主科になろうが、適宜両者相談報告し、肺・心臓同時に評価する環境が大切なのだと思います。

 

 

 

 

 

 

一番多いのは肺炎 or 心不全問題なのではないかと思いますが、胸水についてつれづれに書いてみました。

 

少しでも参考になれば幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:ushi-sensei:20201031125009j:image

 

なんか家族みたい笑