循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

血液サラサラの薬は一生飲むものか?

こんにちは、うしです。

 

 

 

 

今回は、血液をサラサラに薬(以下抗血栓薬と書きます)が処方開始された場合、一生飲むものか、止めるとしたらどんなときかということを、一般的に書いて行こうと思います。

*抗血栓薬の使い訳の話をするわけではありません。

 

 

 

 

抗血栓薬の種類

抗血栓薬には主に2種類あり、1つは抗血小板薬と言って主に血流の速い動脈での血小板の効果を抑制することによって血栓(血の塊)をできにくくするものです。

もう1つは抗凝固薬と言って、主に静脈など血流の遅いところで血液の凝固(≒凝縮)を抑えることで血栓をできにくくするものになります。

また抗血小板薬と抗凝固薬は作用機序や効果が違うため、片方飲んでももう片方の効果は期待できません(=2剤とも必要なことがあります)。

また、抗血小板薬の場合、ステントという金属の筒を血管に留置した場合、一定期間2種類併用した方が良いと言われているため、抗凝固薬と合わせて最大3種類必要なことがあります。

 

それ以外にも血液をサラサラにする微妙な薬や、抗血栓作用以外の効果を期待して処方することもあるため一概に言えませんが、最大瞬間3種類常時1-2種類は必要になることがあります。

 

 

 

 

 

 

 

抗血栓薬を使用する理由

 

先ほどのステントのように、一番はステントや人工弁などの異物が入ったときです。人工物が体内に入ると異物に反応して(まるで対外かと勘違いして血がかたまってしまう)、人工物のところに血栓ができたり詰まってしまうため、抗血栓薬が必要になります。

 

また心房細動という不整脈があると、心臓の中の心房の中で血液の乱流が起き、血の塊ができやすくなり、いずれは脳梗塞になる恐れがあるため、抗血栓薬を処方することが多いです。

 

心房細動に限らず、動脈硬化で脳梗塞になった場合、急性期治療が終わっても再発するおそれがあるため抗血栓薬を継続します。

 

他にもエコノミークラス症候群とも言われる深部静脈血栓症や、それに続発した肺塞栓症(血の塊が肺動脈につまる致死的な病気)になった場合は抗血栓薬で治療を行い、治療後も再発予防で継続されることが多いです。

 

細かい処方理由は挙げたらきりがないですが、主にこのあたりかと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

抗血栓薬のリスク(デメリット)

これは単刀直入に、血液がサラサラで血が固まりにくいため、

抗血栓薬のリスク≒出血リスク

でいいかと思います。

他に肝障害やその他もろもろあると思われますが、実臨床で問題になるのは出血です。

と言っても、自然出血することは稀ですが、鼻血や痔出血、月経の出血などが通常よりも多くなったり、紫斑・青タンができやすくなったりします。

頭部外傷の場合、脳出血のリスクは上がると思いますし、胃潰瘍などなれば出血して重篤になるリスクも上がると思われます。

 

他のデメリットとしては、抗血栓薬を内服している場合、歯医者さんをはじめ他科診療の際に非常にブレーキになります。

例えば「かかりつけの循環器内科にこのサラサラの薬を止めていいか聞いてきて」と当日診療してもらえなかったり、「出血リスクが高いから当院では加療できない」と断れることもあります。

また抗血栓薬を休薬しての他科の手術などを行う場合は休薬時の血栓リスク(血の塊ができて血管など詰まってしまう)が上がってしまうこともデメリットです。

 

 

 

 

 

 

 

 

抗血栓薬の止め時とは

 

実はこの止め時はとても難しいです。というのも、止め時がないのがほとんどだからです。

上記の順に沿って解説してみます。

 

①ステント、人工弁

いずれも一生ものになるため、基本的には生涯1剤は抗血栓薬を内服する必要があります。ただし、血管内にステントを入れない治療(ステントをいれたかと思ったがバルーンという風船で広げただけなど)の場合や、人工弁の中でも生体弁(機械ではなく牛や豚の弁)の場合には一定期間してから抗血栓薬の終了を検討できます。

またステントの場合でも足の太もも(より上)の太い血管の場合は、血管径が大きいため閉塞リスクが低く、一定期間内服後は抗血栓薬中止を検討できます。

 

②心房細動

非常におおざっぱに言うと、心房細動という不整脈がある人の年間の脳梗塞リスクは5%程度らしいです。これは心房細動を根治しない以外は薬である程度抑えられたとしても脳梗塞リスクは残るため、出血リスクが5%を超えることがない限りは生涯抗血栓薬を内服すべきと考えます。

ただし最近はカテーテルアブレーションという心房細動の根治治療もあるため、治療がうまくいった場合は慎重に抗血栓薬の終了を検討します。

 

③動脈硬化性の脳梗塞

脳梗塞については他の分野よりやや確立されていないイメージですが、動脈硬化で一度脳梗塞が起きた場合は次いつ起きるかわからないため、基本生涯飲むべき(と専門外ですが)聞いています。

ただしこれは脳梗塞の種類や血管の状況、出血リスク含めた全身状態での総合的な評価が必要と思われます。

 

④深部静脈血栓症、肺塞栓症

長時間の座位(車や飛行機、入院、寝たきり)や脱水、また糖尿病がん骨折などで足などの静脈の血栓リスクが高くなりますが、体質などもあります。

一度発症してしまった場合は3-6か月は抗血栓薬を使用し、とりあえず血栓がなくなるまで継続します。

そのあとは実臨床では非常に難しいです。端的には、血栓リスクが解消していれば抗血栓薬終了を考慮、となります。

例えば元気な人が足の骨折でしばらく入院していて血栓ができた場合、退院後は長期入院と骨折の2つのリスクが両方とも解消されたため、血栓リスクが減ったと言え、抗血栓薬の終了を考慮します。

逆に寝たきりで認知症でがんや糖尿病もある人の場合、今後すたすた歩きまわれる可能性は低く、血栓リスクは消えないため、できれば抗血栓薬は生涯内服が望ましいです。

実際にはこの中間くらいのことも多いため、個々の患者像を見ながら最終的には医師と本人と相談して決めていることが多いです。

 

 

 

 

 

 

 

だいたい上記の通りです。

 

ただし、唯一止める可能性があるのが、血液がサラサラになることによるメリット<デメリット(治療効果<出血リスク)のときは中止を検討します。

ただし、出血リスクが減ったら(例えば大腸ポリープから出血していたが、ポリープを取ったなど)再度抗血栓薬を再開します。

 

また超高齢者の場合は転倒・脳出血リスクやきちんとした内服継続が難しくなり、総合的に抗血栓薬を終了することがあります。ただしこの場合は残りの生涯、抗血栓薬を中止したことによる血栓リスク(つまったり)をずっと抱えていくことにもなります。

 

 

 

 

 

まとめとしては、抗血栓薬は一度始めるとなかなか中止することが難しく、ステントなどを用いた治療をする際には事前に医師と患者とのしっかりしたコミュニケーションが必要、と考えています。

 

 

 

 

ちょっと真似してみました(笑)

 

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