循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

家族が誰もいないと診療の質は変わるか?

こんにちは、うしです。

 

 

 

今回はタイトルに関連して、家族(≒キーパーソン)がいないと診療に差し支えあるかという少しナイーブな内容ですが、率直に書いてみます。

読み物としてみてもらえたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

キーパーソン

 

キーパーソンとは、その名の通りkeyになるpersonで重要人物になりますが病院としては、第一連絡先という位置づけになります。

基本的に病状説明などは本人だけでもいいのですが、本人の理解を超えるような重要事項説明(手術やがんの告知など)のときは同席をお願いしたり、患者さんが急変したりするときに場合によってはすぐに連絡をとる相手になります。普段は入院に必要な持ち物を持ってきてもらったりします(たいてい病院にはコンビニなどがあるため患者自身で買うこともできます)。

 

どんな人がなるかというと、もちろん家族がなることがほとんどです。逆に重大な責任がくることもあるため(極端な例としては急変して植物状態になったときに最後まで面倒をみてくれるなど)、関係が浅い人は不適です。

また知人・友人の場合は法的に関係性がないため、例えば本人に無断で(急変して会話ができなくても)知人に病状を説明することは個人情報の違反になるためむしろ不可です。

(ただし知人しかキーパーソンになれる人がいなく、本人にとって大事な人の場合は本人了承で同席して一緒に話を聞いてもらうことはしばしばあります)。

婚約者も微妙なところですが、まだ籍をいれているわけでなければ知人に近い存在になります。

 

本人の意思決定能力がすでに乏しく(精神疾患や認知症など)、家族も誰もいない場合は後見人という、要は一般ピープルが代理でキーパーソンになることがあります。

またケアマネージャーさん施設長の方が少しイレギュラー(全責任は終えなくても)でキーパーソンになってくれることもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

キーパーソンがいなかったら入院診療はできないか?

 

それに関しては、そんなことはありません。一人で入院の準備をして来院して、病状説明も一人で聞いて、後日入院費を支払いすれば何の問題もありません。

足りないものは院内のコンビニ等で買い足せば問題ありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

救急車はどうなのか?

 

 入院とはシチュエーション変わって、救急車の話をしたいと思っています。

まず当院では、救急車は極力断らないスタンスで貫いているため基本的には家族がいるかどうかで受け入れを考えることはありません。

ただし、実際には家族がいない方が救急車の受け入れとしてはハードルは上がるとは思います。

というのも、救急搬送の場合は病状が重篤なことも多いため、本人だけの意思決定ではなんともできないことが多く、また本人の状態が悪い場合は疎通もとりがたくなるため、本人だけで搬送された場合は非常に診療しにくいです。

(たとえば緊急で造影CTを施行したいと思っても、本人が腹痛で唸っているのに造影剤アレルギーなどの稀な合併症のせつみは困難であり、ただしどなたかの同意が得られないとよほど致死的な状態を除いて検査治療が進められなくなります)

 

また、救急搬送されたが緊急性がないため帰宅になることも多いです。その際本人だけ救急車できてしまった場合は帰りの手段がなくなってしまいます

多くの方は家族が一緒に救急車に乗って、帰宅の場合はタクシーを使用したり、家族が車で来院し車で帰宅したりしています。

もちろん本人は体調悪く、病状の判断もできない状況で救急車を呼んだのであれば責任は一切ないのですが、自然によくなり緊急性はなく帰宅可能な状態のときに困ることになります。病院はホテルではないため臨時入院適応がなければ基本は帰宅となるのですが、一応入院ベッドが空いていれば相談の余地があるにしても、入院ベッドが全くない場合は帰宅の際の家族のサポートなども念頭には上がります

 

病院によっては家族の同伴が受け入れの可否に考慮されているところもあると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

キーパーソンがいなくても診療内容は全く変わらないか?

 

 ここからさらにナイーブな、責任の問題になっていきますが。

 

例えば大きな手術やリスクの高い治療などをするとき、キーパーソンにも来院してもらい医療者と本人とキーパーソンでみんなで治療法を考えてきます。

 治療の程度によりますが、この際にキーパーソンには「本人が治療のリスク(医療事故ではなく合併症や一般的な可能性の範疇)で致死的になることもある」と伝えることが多いです。それに対して了承をもらえ、万が一のときは医療者と本人の他にキーパーソンも支えになってくれるかが重要となります(例えば植物状態になってしまい本人の疎通がとれなくなったときの本人代理の意思表示や延命治療の是非、また入院費用やその後のケアのサポートなど)。

この際にキーパーソンが不在だと、少なくてもハイリスクな外科手術や、循環器でいう非常にハイリスクなカテーテル治療は結構ネガティブになります。

ただし、本人の意思がしっかりしていて、家族身内が誰もいない場合、事前に治療リスクなどを本人と共有できていれば、キーパーソンがいないからということで診療の質や内容が変わることはないと考えてください

 

ただし、一番困るのは、普段は縁を切っているのになんだか絶妙なときに突然口を出してくれる遠い親戚(遺産目当て!?笑)や、ただ本人が伝え忘れていただけで隣町に親族がいて、急変して本人の疎通がとれなくなったあとに「なぜリスクの高い治療をする前に自分に説明してくれなかったのか」と問題になるケースがあります。

 

大切なことは、キーパーソンの有無ではなく、その人自身を任せられる、事前に病状を伝えておくべき大切な人が本当にいないのかをみんなで検討することだと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

 

まとめると、家族がいなくても診療の質には影響しないが、救急車受け入れには若干ネガティブに考える病院もあるかもしれない。

キーパーソンがいなくても本人と一緒に病状を理解していけば問題ないが、本当に誰もいないか再度確認が必要。

 

と言えると思います。

 

 

 

 

 

自分はこの手のトラブルはありませんが、訴訟とか遺産とかそういう問題ではなくて、一人の診療の決定の仕方として大事だと思って書きました。

 

少しでも参考になれば幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

キーパーソンと睨み合ってます笑

 

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