循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

病状説明を録音してはいけない本当の理由

こんにちは、うしです。

 

 

 

 

今日は少しテーマ変えて、「病状説明を録音してはいけない本当の理由」ということで話してみたいと思います。医療者側も一般の方にも参考になると思うのでよければ最後まで読んでください。

 

 

 

 

 

 

病状説明≒IC

 

病状説明は文字通りです。

ICというのは、Informed Consentの略で、説明して同意を得る、という意味になります。つまり、(病状医療者から)説明し(治療方針について患者さん主体に考え、医療者が提案した治療法について)同意を得る、ような感じです。患者主体で診療しよう、という風にも言い換えられます。

実際に現場では(正しくないのですが)、病状説明=ICのように理解され、「そろそろICしようかな(病状説明しようかな)」のように使ってしまってますね。

 

いずれにしても、診療方針については医療者(主治医)は患者さん(+家族)にわかりやすく説明し、できる範囲で希望を聞きながら同意理解了承をもらいながら診療していくことが大切です。

 

 

 

 

 

 

 

 

病状説明の方法

 

最近はコロナの影響で電話等で行われることが増えていると思いますが、これは話した内容を記録を記録しておくことができず、また家族には伝えられても患者本人も同時参加が難しいため、本来であれば間に合わせのようなやや不適切な病状説明になります。

自分は検査結果の報告(良いもの)や退院可能なことを伝えるのみ、または1-2週間の報告のみは最近電話で行うこともあります。

 

そのため、本来は直接来院してもらい、説明用紙を用いながら説明し、写しもしくはコピー等でお互い控えを持つ対面形式が望ましく、通常はこの方法で行われます。

できれば本人の他に家族も一緒に聞くのが望ましく、医療者も客観性を持たせるためにも主治医の他にもう一人くらい(担当看護師や主任さんなど)がいた方がいいですが、業務の多さやその日の話す内容の重さにもよるため、自分は簡単な説明であれば一人で行っています。

頻度などについては内科と外科とその他の科、また急性期か慢性期かによって全然違うと思いますが、状態が良くなったときもしくは悪くなったとき、また入院or退院のときに病状説明が発生することが多いです。

 

説明が終わったら自分が署名したあとに患者さんたちに署名してもらい、控えを渡すことにしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

病状説明の録音について当院の規定

 

壁に以下(一部病院名が入るためトリミングしました(笑))の張り紙が貼ってありました。

 

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撮影は写るもののプライバシーや個人情報の問題からダメです。

録音については、職員や患者の声がプライバシー的にまずいんでしょうか?

 

ちなみに、病状や検査の説明するときに「家族にも聞かせたいんで録音してもいいですか?」と聞かれることは結構あります。個人的な感想で申し訳ないのですが、これ結構イヤです(笑)

話終わってから、「もう一回ここに録音して」と言われたこともありますし、手元でガサガサしているなと見てみるとiPhoneの録音がこっそりされているなんてこともあります。

なぜダメなのですがと言われても結構難しいのですが、とりあえずどこでどう使われるのかわからないため不安になります。たぶん信頼関係構築のためというのがここに当たるのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

病状説明を録音してはいけない本当の理由

 

ただし、この録音について、たぶん患者家族側としてはあって損はないと思いますし、ただイヤなだけなら「本当にダメなのか」ということになるのですが、病状説明の録音をしてはいけない本当の理由として、医療訴訟・問題があります。

というのも、病状説明の説明用紙は作成後医療者と患者側で公平に1枚ずつ保管します。その内容をネットで調べたり知人の医者に聞いてもらっても構いません。書き足してもこちらにコピーがあるため、すぐにわかります。

 

一方で、録音されたデータは医療者にはありません。いくら電子カルテでもこちらの話し声を録音しておく機能はそうそうできないと思います。

 

例えば、大動脈瘤という大動脈のこぶの話をしているとき。腹部の場合60mm以上のサイズになると破裂リスクが15%/年間に上がり、突然死のリスクが高いため、大手術にはなりますが手術をお勧めします。50mmの場合は手術適応ではないが破裂リスクは多少はあります。これはどういうことかというと、50mmの場合は経過観察での破裂リスク<手術リスクの関係のため理論上手術しない方が良い、ということになります。

 

これに対して、

「あなたの腹部の大動脈瘤は50mmです。現時点では破裂リスクは0ではないですが、手術リスクの方が高いです。なので経過観察を強くお勧めします」

と伝えた場合。

その後経過観察して大動脈瘤が破裂して死亡した場合。

遺族から録音を持ってきて「『経過観察を強くお勧めします』と言われたから様子見たら死んだから責任をとれ」と言われた場合。

 

いやいや、「手術リスクと比べた場合であって…」と言ってもこちらも証拠がないし、現に自分の声の録音を持ってこられると、医学的に何も間違ったことをしていなくても非常に問題が大きくなります。

(ただしいくら医学的に間違っていなくても死亡するような重篤な結果になった場合には振り返りは必ず必要だと思いますが)

 

なんなら、先ほどの発言をトリミングして、

「現時点では手術リスクは0…なので経過観察を強くお勧めします」

なんて加工された場合。

俄かには加工とはわかりません。逆にもしこう説明していたのであれば医療事故になるかもしれません。

 

上記のことは、診療の内容が悲しい結果である以上に信頼関係も築けていなければ、説明も理解できていなく、患者家族も納得できる結果にならず、誰が悪いのかのみに矛先が行ってしまい非常に残念な状態と思います。

 

自分や周囲でこのような録音関係のトラブルは聞いたことがありませんが、例えばこっそり録音されていることに気が付いた場合は、上記のようなことが頭によぎるため、診療に対して少しネガティブになってしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

お互いに気を付けるべきこと

 

なので、録音はできればお控えいただきたいと思っています。

 

逆に医療者(研修医なども)で、説明が終わり相手に署名をもらってから、あとで書き足す悪いケースも聞いたことがあります(故意ではなく、同意するに〇をつけてもらい忘れたなど)。

大切なのは、医療者と患者側が良い関係で、同じ歩幅で歩むことだと思います。

 

そのためにも、病状説明という場では、説明用紙を伝達手段として一番に尊重すべきかと思います。

説明を聞けなかった家族にも、その説明用紙を見せてもらう方法で伝達するのが一番と思います。

 

患者側としては、逆にその説明用紙に書いてある内容に少しでも不明な点や納得しがたい点がある場合はしっかり質問し、両者が納得した状態で署名し、診療をしていくことが大切だと思っています。

 

特に、患者側のサインは、その内容全てを説明受け納得しました、ということだと思っているため、納得できなければどこか納得できないか伝えてもらえたらいいですし、たまに患者側に先にサインを書いてもらってそのあとに医師のサインを書く人がいますがこれも少し(医療者側の)ルール違反かと思っています。

(あくまで患者のサインが最後にあるべきだと思っています)

 

 

 

 

 

自分もたまにおろそかにしてしまうところがあるため気を付けなければなあと思って診療しています。

 

 

 

 

 

どの立場の方にとっても、少しでも参考になっていただけたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

ブログ用に写真パシャパシャ撮ってたら睨まれました(笑)

(もちろん同意なんてとっていません(笑))

 

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