循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

Apple Watchの心電図をどうみるか

こんにちは、うしです。

 

「この時計は 時間が わかる ダケジャナイ!」

 

でおなじみの、最近流行のApple Watch。

 

CMの最後にも、「不整脈を検出したり〜」と、循環器内科にとっては気になることを言ってきます。

 

そこで昨年末に出た、Apple Watchの不整脈検出の有効性に関する大規模な論文を中心に、循環器内科(と投資家初心者)の目線で記事を書きたいと思います。

 

なるべくわかりやすく書くので、医療関係者以外に、特にAppleが好きな人やApple Wathcの購入を考えている人、またAppleの株を持ってる方は是非最後まで読んでみてください(笑)

(Appleの株を勧めてるわけではありません笑)

 

あと自分はApple Watchを持っているわけではないので、細かい最新の機能に誤りがあったらすみません。

 

 

 

 

 

とりあえず、Apple Watchは脈拍を上手に感知するみたいですが、Appleとしてもそれ以上ものを目指しているようで、2019年11月に次のような論文がNew England Journal of Medicineより発表されました。

 

 

Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation

 

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1901183

 

 

 

 

ちなみにNew England Journal of Medicineとは医学論文の中で掲載されれば最も名誉と影響が大きい論文の1つで、まあ例えば「Apple社に就職した!」みたいなものだと考えてください(笑)

 

論文の評論には、論理的かどうかや、診療や研究に今後どう役立てていくかを、科学者として論じないといけないのですが

 

今回は循環器内科医からみて、医学的な面というより、この論文からお客さんがApple Watchを買うべきかどうかという目線で記載していていきます。

 

 

 

 

 

まずタイトルですが

 

「心房細動を検出するための(appleの)スマートウォッチの大規模評価」

 

ということで、「役に立ったか評価してみましたよ~」ということ。

 

心房細動という不整脈はあとで解説するので、だいたいの中身を(自分が以下論じやすいように本文から年齢を中心に抜粋し)先に記載させてもらうと、

 

 

合計419.297人が研究に参加。

 (人数比 65歳以上 5.9%、40-64歳 42%、22-39歳 52%)

・だいたい3か月モニタリングして、2,167人(0.52%)に不整脈が通知。

 (不整脈通知率 平均 0.52%、65歳以上 3.14%、40-64歳 0.60%、22-39歳 0.16%)

・2,167人のうち450人(20.8%)が心電図を返却して、153人(34%)に心房細動があった。(153人の内訳…65歳以上 63人、40-64歳 81人、22-39歳 9人)

・ちなみに、(心房細動の)陽性適中率はだいたい84%だった。

・アプリ関する有害事象(困ったこと)はなかった。

 

 

 

 

という結果です。

 

とりあえず感想は、2167人通知された人は、心電図をとって返さないといけないようですが、それが20.8%…少な!!!

(これには、さぼった人が大半なようですが、医療機関を受診した人やデータの不具合があった人も除外されているようですが)

 

これは大事なことで、論文にはいろいろなバイアスがかかります。それで結果がかなりゆがみます(例:論文作者が有効性を示したければ、不整脈が見つかりそうな人を抜粋して研究すれば通常より不整脈を検出できるように見せられてしまう、など)

 

とりあえず、若い人が多く(22-39歳が52%)で、さぼっている人が多い(病気を気にしている人がより多く返却した可能性があり少しオーバーな結果になりえる)、くらいのバイアスでいいでしょうか。

 

 

 

 

ここで、なぜこんな研究をやったのかについて、前回の記事でもモニター心電図の目的が大事とお伝えしましたので、そこを考えてみます。

 

つまり心房細動のことです。

 

 

 

 

 

ちょっと極端なことを言うと、大前提として、

不整脈が仮にあっても、基本的に症状がなければほとんどのものは治療対象になりません

 

例えば、徐脈。これはいい薬がほとんどないので治療はペースメーカーしかないのですが、

 

すごい徐脈があったとき、心配だとは思いますが、不整脈の種類に関わらず

 

徐脈自体は症状がなければペースメーカー(治療適応)の適応はほとんどありません。

 

 

 

頻脈は薬がありますが、

 

頻脈も、症状実害なければほとんどは経過観察可能です。

 

 

 

 

症状があれば、普通は病院に受診するので、受診すればよいでしょう。

 

 

 

 

では比較的頻度が高く、かつ無症状でも治療が必要な不整脈とは、これがほぼ心房細動だけだと思っています。

 

 

 

心房細動とはどんな不整脈かとざっくりいうと、小さな電気が心房に出てかく震えいている状態であり、

 

脈がばらばらになり、ときには頻脈に、ときには徐脈になります。

 

脈の速さは上記の通り、まあ困っていなければ(症状がなければ)概ね様子見でいいです。

(10-20年放置するとだんだん心臓が大きくなってしまうのですが、これは今回は複雑なので割愛します)

 

 

 

唯一、全例治療を検討しないといけないのでが、塞栓予防です。

 

どういうことかというと、本来動いているところが細かく震えると、血の循環が悪く、血が固まりやすくなります。

 

患者さんには、「コンクリートミキサーはグルグル回っていないと固まってしまいます、循環していないと固まってしまいます」と説明しています(笑)

 

固まった血は、いつか剥がれ、脳などの全身に飛んでいきます。

 

 

 

つまり、心房細動は、放置すると粗大な脳梗塞になりえます

 

 

 

そのため、出血リスクが高くなければ、多くの人に抗凝固薬という、血液をサラサラにする薬を処方します。0%にはなりませんが、きちんと飲めばかなりの脳梗塞予防効果になります。

 

 

 

ちなみに、脳梗塞リスクは、年齢やリスクによって差があり、リスク0(若年で病気他ない人)の人はほとんど脳梗塞にならないようですが(0ではありません)、

 

心房細動全体ではだいたい5%/年の脳梗塞のリスクになります。

 

 

 

 

 

つまり、今回の(Appleが依頼した)論文の主旨は

 

Apple者のsmart watchは脳梗塞を予防しえるのか

 

とも書き換えられます。脳梗塞予防が現時点での目的でしょう。

 

これを踏まえて最後まで論じましょう。

 

 

 

 

 

 

そもそも、参加者の半分以上が39歳以下と、(病院に来る人と比べたら)、若いですね。

 

でもそんなものかもしれません、比較的高齢の方でも、スマートフォンは少し浸透してきた気がしますが、1-2年ごとに最新のiPhoneにするのは若い人が多いと思います。

 

ましてや、高齢の方で自分のお気に入りの時計をやめて、smart watchに変えるというのは少し珍しい気がします。

 

ありえるとしたら、スポーツをするようなお元気な高齢の方が、スポーツウォッチとして使用する、程度でしょうか。

 

 

 

 

 

すると顧客のターゲットは若い人になります。

 

 

 

 

22-39歳を中心にみると、

 

3か月の期間でだいたい0.16%の人が不整脈ありと通知がきて

 

だいたい34%くらい心房細動ありなので、

 

だいたい0.05%くらいの人が知らぬ間に心房細動が見つかるという感じでしょうか。

(陽性適中率84%のくだりはよく組み取れなかったです)

 

 

 

 

 

ちなみに

心房細動がありそうです、と通知がきたらどうしましょう?

 

 

 

 

これ自分も(受診されても)判断に困ります

 

 

持続や頻度によりますが、何も困っていないのに、上記の脳梗塞予防のために、20歳くらい(残り人生約60年間)の人に一生血液をサラサラにする薬を出すのかというと、微妙です。

 

そもそも、若年者で疾病がない人は、脳梗塞リスクはそもそも低い(1.9%/年以下ですが、おそらくもっともっと低いと思います)です。

 

ちなみに、若年で心房細動で脳梗塞になった症例は非常にめずらしいため学会発表で考察されりするくらいです。

 

ガイドラインでも、海外では抗凝固薬(サラサラの薬)を使用しないように(副作用の方が懸念)とあり、国内のものも、基本的には使わない(が、若いと脳梗塞の社会的ダメージが大きいため、使ってもよい)とあります。

 

 

根治治療に、カテーテルアブレーションという、電気で心臓の中の不整脈部分を焼く(隔離するイメージ)もありますが、これをしたからといって今後60年以上心房細動が出ずに脳梗塞が起きないという保証はありません

(無症状の時点で、心房細動が再発しても誰も気が付くことができないのです。smart watchで管理できるのでなければ)

心臓に電気で穴を開ける治療なので、カテーテルのイメージよりはおっかないです。

 

 

結局、相談されたら、

あまり持続していなければ様子見、それなりに頻度が多ければカテーテルアブレーションを勧めてみる。

 

が現実的かと今は思っています。

 

 

 

まとめると、

 

smart watchで不整脈(心房細動)が通知されても、これを持っているような若い方であれば、無症状であれば今後の人生に脳梗塞に少しなりやすい(けど治療するようなものでもない)という不安をもつだけなのではないか

 

 

 

と感じました。

 

面白い機能だとは思いますが、楽しむくらいがいいのではないかと思います。

とりあえず、これ持ってたら心臓も見てくれるし健康になれる、という認識であればちょっと違うかなって思いました。

(今のApple Watchにどんな機能があるか知りませんが、up dateされていくでしょう)

 

ちなみに自分はApple Watch、欲しいと思っています(笑)

 

 

 

 

 

最後に、

 

高齢の方で、例えば脳梗塞の原因検査をしなければならない方などは、非侵襲的簡便でいいと思います。

病院でApple Watchを処方できたら面白いと思っています。

 

失神で受診した患者さんに、失神の原因として徐脈を見つけたいと思ったときに処方できればそれも面白いと思います。

 

 

 

 

 

 

なんだかんだ、

Apple社の、今後の医療業界への進展の、第一歩なだけなんじゃないかと思っています。

 

 

 

 

 

そのうち、今のようなWindows(Microsoft)の電子カルテではなく、半数以上がMac bookになり

 

Macの電子カルテとリンクして

 

Apple Watchを循環器内科が気軽に処方する日が来るのかもしれませんね(笑)

 

 

 

 

 

インコも添えておきます。

 

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