循環器内科うし先生のほのぼのブログ

北海道の中規模病院で勤務する循環器内科医のうし先生です。

何故風邪に抗菌薬を処方するのか

こんにちは、うしです。

 

昨日こんなニュースが出てました。

 

 

医療機関初の コロナ倒産、 岡山  真庭市の 整形外科医院

https://this.kiji.is/660406302941135969

 

 

整形外科のコロナ事情はちょっとわかりにくいです。記事には大して書いてなく、もともと看護師不足で縮小とあるので、おそらくもともと赤字だったのではと思います。そこにコロナで外来患者が減ったと。

慢性リハビリもやってるみたいなので、出歩き減少→怪我減少と、ただの打撲や鎮痛処方受診減少の他に、定期リハビリの減少が大きかったと思われます。

 

むしろ、内科のクリニックの方がよくテレビで収益減少が報じられてますね。

自分の病院は中規模の市中病院ですが、ここ1-2ヶ月だけでちょっとここでは言えないくらいの赤字のようです。まあうちも元々赤字なんですが(笑)

このあたりについては次以降の記事で書きたいと思います。

 

それらに関係して、いつもなら「風邪に抗菌薬は不要」と知られるようになってきましたが、逆に抗菌薬は何故だすのかという視点で書きたいと思います。

 

 

ちなみに、前回の記事で書いたとおり、風邪というのはウイルス感染による急性の(これ前回書き忘れた)の上気道症状(鼻汁、咳嗽、咽頭痛)を3徴とする症候群でいいかと思いますが、定義からもウイルス感染です。

 

抗菌薬(一般には抗生剤でなじみ深い)は、機序は様々ですが、例えば細胞壁障害や細胞のタンパク質作成を阻害するメカニズムで働く細菌に対する薬剤です。自らの細胞をもっていないウイルスには効きません。

(例外として、クラリスロマイシンの線毛促進作用で副鼻腔炎(広い意味では鼻中心の風邪ではある)に使用したり、ウイルス性ではなく細菌性の副鼻腔炎や扁桃炎(これらは3徴揃わず1つの臓器に限局的になるはずですが)で抗菌薬の積極的な使用をすることはあります)

 

自分たちの医者世代であれば、大学5ー6年生か、遅くても研修医になるまでには風邪はウイルスだから抗菌薬は不要と知るはずです。

なんだったら、風邪の一番の治療は睡眠や休息であり、一般的な風邪薬は風邪と戦う力を弱くしたり(例:解熱剤)、ウイルスを放出する力を弱くするので(例:咳止め)、市販薬を含め、早く治したいなら風邪薬は何も飲まない方がいい、ということは先に書いておきます。

 

そして、唯一早く治す可能性があるものは、麻黄湯です。

 

15分ごと?、とりあえず汗が出るまで麻黄湯を追加内服して、汗を書いたら終了するというやり方があり、イメージとしては、内部から熱いエネルギー(熱)でウイルスを殺菌(殺ウイルス?笑)する、ような感じでしょうか(笑)

 

ちなみに自分は麻黄湯を処方したこともないし飲んだこともありません。ちなみにちなみに、自分が風邪引いたら風邪薬飲みます、だって辛いもん(笑)

 

追加すると、麻黄湯はエフェドリンという交感神経を高める物質が入ってるため、心臓疾患ある人は注意が必要で、漢方特有の副作用もあります。市販にも売ってますがすくなくても通常量をこえた使用はここではオススメしないので(本筋と違いますが)、どうしても気になるようであれば医療機関でご相談ください。

 

何がいいたいかと言うと、風邪というのは身近な分、ベストな治療と実際の治療や、医療者の考えと患者の考えがすごく解離しやすいということです。

 

 

ところで、皆さんが風邪になったと感じて医療機関を受診しなきゃ、というとき、何故?何を目的に受診しますか?

あ、コロナが流行る前の話で。

 

 

 

自分は率直に患者さんに聞いてますが、以下が多い印象です。

①薬をもらいにきた

②悪化する前に早めにきた

③「風邪だから受診したほうがいい」と周囲に言われてきた

④(冬は)インフルエンザが心配だから(検査希望で)きた

 

 

 

ちなみに医療者が風邪らしい人を診療すること際にまず(少しでも)考えるのは、肺炎や急性喉頭蓋炎などの死にうる病気でないかな?ということです。

 

 

 

全然認識違いますよね。

 

特に(自分もそうでしたが)若い医者(特に研修医)の方が診療も丁寧で風邪については正しいことを言いますが、医療者側の認識が強く、時に患者さんとの温度差が大きいなと思います。

 

そして少し上のやつに上から目線でケチをつけさせていただくと(笑)

 

①薬をもらいにきた

市販薬も成分は同じ(ただし濃度が違う)だし薬飲むと治るの遅くなるよ?

②悪化する前に早めにきた

早く受診しても治る早さは変わりません。まさか抗生剤をもらいにきたんじゃ…?

③「風邪だから受診したほうがいい」と周囲に言われてきた

意味プー。風邪は寝てるのが一番です。

④(冬は)インフルエンザが心配だから(検査希望で)きた

元気な人はインフルも風邪と同じだし診療方針も同じだから検査してもメリットないし検査の精度からもしてもしょうがない

(検査の精度については後日違う記事に書きたいと思います)

 

 

でもこんなこと言われたら怒りますよね?体調悪いのに(笑)

 

無意識なものも含めて、風邪で受診する人は大きくわけて、辛さをとってほしい、と、不安だから(風邪と)診断してほしい、が2大柱になってると思います。

 

辛さをとってほしいというのが一般的な風邪薬の処方を求めてるということで、いくら治るのが多少遅くなっても風邪薬処方するのは全然よいと思います。

 

自分は率直に最初に「失礼ですが今日は何を一番希望して受診しましたか?」と書いた上で「辛いようであれば薬を出しますが、早く治るわけではないので飲まなくてもいいですが、何か薬だしますか?」と聞いて、希望された薬(例えば咳止め)など出してます。

 

こちらが重要なのではと思いますが、不安だから一応きたパターンで、これが抗菌薬処方に繋がってると思います。

 

さすがにウイルスに抗菌薬が本当は効かないということは医療者には浸透してきたと思いますが、これだけ抗菌薬適正利用が謳われるようになったのは最近ですし、一般には不安で一応抗菌薬がほしい、ということは多く、気持ちはわかります。

 

 

これに対して拒否したらどうでしょう?

(研修医のいるようなうちのような病院ではよくある光景ですが笑)

 

「風邪はウイルスで抗菌薬は効きません。自分の免疫で治ります。抗菌薬自体で害はないかもしれませんが薬疹や下痢などの薬の副作用もおこりますし抗菌薬の不適切利用で今後世の中に耐性菌ができる可能性もあります。あなたに抗菌薬を処方するのは不適切です」

 

ちょっとウザいですよね(笑)

病院には医学教育を学びにきたわけではありません(笑)

自分はまあもう少し柔く、上記のようなことを言ってますが…(笑)

 

それよりも

 

「辛いよね?風邪には効かないと思うけどお守りがわりに一応抗菌薬出しておくよ」

 

の方が、優しいし、スムーズだし、また来たいと思うのではないでしょうか?

(とりあえず、熱でぐったりしてるときにそこまで医学知識がない人にとっては)

 

 

そして市中病院の勤務医はノルマもなければ診療の質や数で賞与などもないのが普通です。風邪の診療程度でないとは思いますが自分の病院の人気が下がれば仕事が減ってむしろ楽です(笑)

 

それに比べて地域などのクリニックは、地域住民と密着しており、診療の質ではなく雰囲気や口コミで評判が決まるのが実際です。

 

そして抗菌薬を処方されたことは関係なくても、風邪は自然に治るので、あたかも薬が効いたような錯覚を生じ、あえて抗菌薬を出した方が名医に見えます。

 

そして、医療も一応はビジネスです。

診療において、儲け目的で検査を多くするなんてことはあまり聞いたことはありませんが、処方しないよりもした方がお金になります。処方の保険点数は複雑で難しいですが、お店で売買してるときに、「これほしい」とお客さんに言われたら売りますよね?

 

 

長々と、まとまりなくなってしまいましたが、とりあえず抗菌薬をはじめ、患者さんのためと(実際に患者さんの体内ではメリットになってなくても)、薬を出した方が一見いい医者でお金も入り早く診療が終わり、評判がよくなることが多いということです。

 

抗菌薬には最初に書いたとおり、いろいろな理由があることとがあるので、一概に悪というわけでもありません。

 

一般の人へのメッセージの他に、特に研修医の先生などは、「なんであのクリニックはあんな診療するの??」なんて思うことも最初はよくあるため、記事にさせてもらいました。

 

参考になれば幸いです。

 

最後に、今日のインコを添えて終わりたいと思います。

 

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